なぜ今なのか
学校は潰れない
正確には「地方の」中学校や高等学校は潰れないと言うべきでしょうか。毎年のごとく私立校の廃校がニュースになる大学と異なり、地方の私立中・高等学校が統廃合や経営母体変更による名称変更以外で潰れることはほぼありません。
人口の首都圏一極集中と少子化のダブルパンチを受けて子供の総数が減少を続けている地方の学校は、県の手厚い補助金を受けてその存在だけは守られています。大学と異なり、中学や高校は水道や道路と同じような社会の必須インフラと見なされており、過疎が進んだ地方にあっても、たとえ採算が取れなくても、維持しておくべきであるとの社会の合意があるからです。
生徒は“一学年で”20〜30人。生徒からの授業料だけでの運営は夢のまた夢。苦し紛れに通信教育を始めたり東アジア・東南アジアからの留学生を受け入れたり。県からの補助金によってギリギリ黒字にはなっているものの、もはや教育機関と言うよりも「補助金の受け皿」としてしか機能していない学校も多くあります。
ゾンビ学校
これらの学校は潰れることはありません。しかし、生きているともいいがたい。さながら「ゾンビ」のような学校です。これらのゾンビ学校はその経営状態だけではなく、教職員の雰囲気も生徒の雰囲気も非常に暗いものです。
教職員は人を育てることに魅力を感じて「学校」につとめたのに、気がつけば「補助金の受け皿」につとめているのですからやる気がでないのも当然です。それでも給料が高ければ我慢も出来るでしょうが、そもそも経営が逼迫しているのですから、まずそれはありえません。
生徒達はといえば、このようなゾンビ学校を第一志望としていた者はだれもいないでしょう。様々な事情から仕方なく入学した学校。それに輪をかけて校内の雰囲気は最悪となれば、愛校心もやる気もあるわけがありません。しかし潰れることはありません。存在だけはしておいてもらわなければ困る社会インフラですから。
かくしてこのような、すでに終わってしまった学校がこれからも無意味にたたずみ続けることになります。
危険なのは都市部から都市近郊の学校
現状だけを切り取ってみれば、上述したゾンビ学校の悲惨さにくらべて都市圏の学校は恵まれています。子供の数が多いため、人気や偏差値にかかわらず生徒はある程度来てくれますから、極言すれば何もしなくても存続は可能です。校内もそこそこ活気があり、色々な試みを実行に移すだけの体力も残っています。よって、極限状態に追い込まれた地方の学校とは全く異なる状況にあると言えるでしょう。
表面的には。
ストレートに言ってしまえば、潰れる可能性が高いのはむしろこのような都市部の学校です。地方の学校は社会のインフラとして存続させなければならないため無理矢理にでも生かしてもらえますが、都市部ではそうもいきません。現状の安定状態は、ただ「子供の数が地方よりも比較的多い」からに過ぎません。少子化の進行とともに子供の数が減ったとき、インフラとしての学校は一つあればよく、あまった他のものは無くても良いのです。
大学の実情
子供の数の減少による学校の淘汰をいち早く体験しているのが大学です。20世紀の人口増加と大学進学率上昇に対応するために設置された多くの大学は、人口の減少により存続の危機に立たされました。入試改革に対応する定員管理の厳格化により学生の首都圏集中は抑制されたため現在小康状態になっているものの、今後の見通しをしっかり持っている法人・理事会においては、避けることが出来ない若年人口の減少を見越した対策を急ピッチで検討しています。
ある大学法人の幹部がつぶやいていた言葉が深刻に響きます。
「体力があるうちに」