生徒達も高3になり、いよいよ本格的に志望校決定に向けて動き出さなければならない時期になりました。英語・数学・国語を柱とした基本的なプランで勉強を進められた高2までとは異なり、高3では各志望校にフィットした勉強計画が求められますから、仮にでも志望校が決まっていないと、そもそも勉強計画自体が立たちません。そのため、この時期に「とりあえずでもいいから決める」必要が生じるのです。

にもかかわらず、なかなか決められないのも現実です。というのも、大学は中学や高校に比べてその規模も選択肢の多さも非常に大きく、質的にも中等教育機関とは全くの別物です。つまり、生徒達にとって「未知の世界」ですから、高3生にとって「就職する会社を今決めろ」と言われるのと大差ないくらいの難題でしょう。さらにやっかいなことに、自身の選択が正しかったかどうかはいつまでたっても分かりません。明らかなミスマッチ(医学部に進んだけれど血を見るのが耐えられない、あるいは、指定校推薦で自身の学力よりも2〜3段階上の大学に入ってしまい授業に全くついて行けない、など)以外は、大学生活は概ね「なんとなくこんなもの」という感想でしょうし、卒業後、就職してからも答えは見つかりません。そもそも「正解」自体が存在しないのです。よって、この時期の志望校選択はほぼすべての生徒にとって「とりあえずココ!」と、意を決して決めてしまうになります。

ただし、そんな曖昧な意思決定であるとしても、「このパターンが一般的」というある種のセオリーはあります。今回はそのセオリーの中から比較的一般論的な内容を書いてみたいと思います。なお、具体的な各学問分野においては細かい選定ポイントがたくさんありますので、生徒と塾講師でじっくりと話し合い、考え得る最良の選択をしてもらいたいと思います。

「良い大学」とは?

まずお伝えしたいのは、かなり根本的なところ。そもそも「良い大学」とはどのようなものでしょうか。東大や京大、早稲田や慶応の名前を挙げて、これらの大学が「良い大学」であると主張すれば多くの人々の賛同が得られるでしょう。しかし、“何が”良いのかと言われると即答するのが難しくなります。よくあるのは「授業のレベルが高い」「就職率が高い・大手企業に就職できる」という二つの答えでしょうか。

前者の答えの方がより“聞こえがいい”ですね。近年の傾向として、「偏差値や就職率を基準に大学の善し悪しを判断するのは大学を就職予備校として見ていることになり、学問を軽視している」という意見が力を増しています。いわゆる「きれいな建前」です。ただ、長年大学入試を見てきて、実際に様々な大学に進学した生徒から内部の話を聞いている人間からすると、首をかしげたくなるのも事実なのです。

というのも、正直なところ授業のレベルが高いかどうかは大学そのものよりも、選択した授業の教授に依存するからです。日本の大学ランキングの頂点に立つ大学においても「微妙な授業」はたくさんあります(例えば、退官間近の“権威ある大先生”が分野の新研究を全くフォローしておらず、30〜40年前の学説を延々しゃべるだけの授業など)。一方で偏差値的に中堅かそれ以下といわれる大学においても「凄まじい感動を呼び起こす授業」が行われている場合もあります(若手の優秀な学者がこのレベルの大学からキャリアを積みますから、実は一番研究者として脂がのっている時期の授業を受けられるかもしれません)。つまり、生徒の人生というミクロな視点においては選択した授業が「当たりだったかはずれだったか」の方が、「学校全体の授業レベル」よりも影響が大きいのです。そしてさらにやっかいなことに、この教授の当たり外れを入学前の生徒達が知ることはほぼ不可能に近いでしょう。

そんなわけで、後者の「就職率が高い・大手企業に就職できる」という答えが残ります。近年話題の「学歴フィルター」などからも分かるように、企業側は業界の共通認識として大学をランク付けしています。これは授業レベルのような「当たるか外れるか」のようなものとは違い、ある大学に入れば自動的にそのランクに分類されるわけですから、比較的先が読みやすいといえるでしょう。

そうはいってもなぁ、と心理的に抵抗を持たれる方も(生徒も)いらっしゃるかと思いますが、よくよく考えてみればこの指標はその大学の教育の質(個々の授業ではなく全体として。さらに設備やシステムも含む)とも密接に関わっているのです。そもそも就職に有利な大学はその大学で教育を受けた卒業生に対する企業側からの評価が高いからこそ有利なわけです。就職に有利だから「よい」のではなく、「よい」から就職に有利になったということができます。

この考え方は偏差値の上下にも大まかには適用することが可能です。「よい」大学であると社会に評価されている→人気が出る→偏差値に反映される、と考えると、一見うさんくさく即物的な偏差値表が実はかなりありがたい志望校選定ガイドになっていることが分かるでしょう。

もちろんこの考え方は絶対の法則では全くありません。例外はいくらでもあります。特に押さえておきたい例外は「ある業界での評価は非常に高いが全体的には無名(評価が低いのではなくそもそも知られていない)大学」です。これはその特定の業界を目指すことを決めている生徒にとってはかなりお買い得です。地方の公立大学、特に理系にいくつかありますので、生徒がその業界を目指している場合には講師と生徒の面談で適宜情報提供をしていきます。

上述したような「お買い得」の例外はあるものの、全体的に見て「就職率が高く大手企業に就職できる偏差値の高い大学は教育レベルにおいてもレベルが高い“可能性が高い”」ということができます。身も蓋もない話ですが…。

文系はネームバリューと規模、理系は研究内容と環境

さて、「将来有利になる」ことを基準としておいた場合(大学在学中の充実はほぼ運ですので基準にできません)、文系、理系ともに大まかな選択ポイントが見えてきます。

文系:ネームバリューと規模

最初に文系からいきましょう。文系の場合、就職の際の重要度は「どこの大学か」>「何学部何学科でどのような勉強をしてきたか」になります。日本の場合、文系が主に進む業種においては大学で学んだ内容と業務の内容が一致しない場合が多いため、そもそも「何学部何学科」という情報はあまり意味をもたないことに起因します。ということは、企業の採用担当を含め皆が知っている大学は有利ということです。ちなみに、大学の採用担当は大学入試の専門家ではありませんから、そこまで精密に入試難易度を理解しているわけではありません。よって、偏差値的には明らかに上の地方国立大学よりも、偏差値は低いけれども全国的に名の知れた首都圏私立大学の方が優位という逆転現象が起こることもあります。また、受験業界ではまず顧みられることのない「東京六大学」のような区分も未だに有効だったりします。ちなみに、このネームバリューを重視する考え方に則れば、学部学科選択においても新設学部は避けておく方が無難でしょう。近年流行りのカタカナ学部(コミュニケーション環境学部、のように名前の一部にカタカナが入る)などは、正直あまりおすすめしません。

さらに、文系で重要なのは大学の規模です。規模(生徒数)が大きい大学には当然多くの卒業生がいます。その卒業生が各業界に無数にいる大学はやはり強い。同窓生のネットワークは就職時やその後明らかに武器になります。よく慶應義塾大学の「三田会」などが雑誌でも特集されていますが、規模が大きい大学には程度の差はあれ強靱な卒業生のネットワークがあります。この「卒業生の数」という観点で行くと歴史も重要になりますね。長い歴史があるということはそれだけ多くの卒業生がいるということです。上述したカタカナ学部(新設学部)をあまりおすすめしないもう一つの理由はその学部の卒業生があまりいない点にあります。

まとめると、「歴史が古く、大規模な大学の、定番学部」は明らかにおすすめです。あまりにも王道すぎて敬遠されるかもしれませんが、やはりこのタイプが強いのです。生徒が「志望校のイメージが全くない」という場合にはたたき台にしてほしいと思います。

理系:研究内容と環境

さて、次は理系です。理系の場合には文系と全く異なる戦略が必要となります。なぜなら、文系と比べて考慮すべき新しいファクターがあるからです。そのファクターは「大学院」。

近年では理系として(大学で学んだ知識を生かして研究職として)就職をする場合、大学院修了はほとんど必須となっています。理系学部を卒業したけれど就職は文系職、という場合には文系の選択基準が有効になりますので、純理系のルートとしてはやはり大学院を意識しておく必要があるでしょう。

大学院進学を考えた場合ポイントになるのは「院試」です。文系に比べて理系では大学と大学院で違うところに行くことが容易になっています。○○大学の理系学部を出て△△大学の大学院に進むというパターンです。特に東大は外部からの流入を重視しているため大学院からの入学が比較的しやすく、結果「学歴ロンダリング」などというあまり品が良くない言葉が流行ったりします。しかしこれはあくまでも東大の学部入試に比べれば院試の方がまだ微妙に簡単、というだけですから、難度が非常に高いことには変わりありません。東大であれ他大であれ、いずれにしても院試を受けて大学院に行かなければならないのですから、在学中にその準備をしっかりとしておかなければなりません。

そこで重要になるのは、どのような研究をしているか、さらに、その研究(勉強)をどれだけ“させられているか”です。大学生活はよく「最後のモラトリアム」などと揶揄されます。高校までと異なり、勉強を強制する先生や保護者はいません。自分でやる気を出し、自分で実行するしかないのです。しかし、現実問題としてはいろいろ他の楽しいことがありますから、なかなか難しい。そんな状況においては勉強するよう強くプレッシャーをかけてくれるシステムを持つ大学がやはり有利になります。そのようなシステムを持っている、あるいは風潮が作られているのは「理系の専門大学」あるいは「国公立大学」になります。

理系専門大学とは○○工業大学や○○理科大学といった名前のついた、理系学部しか持たない大学です。東京理科大学を筆頭に芝浦工業大学、東京都市大学(旧武蔵工大)、工学院大学、千葉工業大学、東京電機大学のような大学が首都圏では通いやすいでしょう。例えば芝浦工大の場合、GMARCHの理系学部とどちらも合格した場合、将来が純理系志望であれば芝浦工大の方を勧める場合が多いです。

国立大学の場合、理系学部しか持たない大学は稀ですが、現状国立大学は文系学部をどんどん削減しており、大学自体のウェイトも理系に偏ってきていることから性質が理系専門大学に近づきつつあります。また、私立のマンモス校に比して生徒数が格段に少ないため、教員の指導が行き届きやすいという利点があります。

公立大学では理系専門の大学がいくつかあります。表現が難しいのですが、かなり「地味」ですので、ある種狙い目です。

まとめると、「在学中にしっかり勉強させてくれる理系専門私大か国公立」を狙うのが王道です。

保護者の関わり方

ここまでは志望校選定の一応のパターンを見てきました。ここからは、保護者の方が志望校選定に関われることを書いてみたいと思います。

1.「とりあえずここ」を後押しする

完璧に準備が整わないと不安という完璧主義の生徒の場合、いつまでも志望校決定を先延ばしする傾向があります。その際にはなんとなくでもよいのでとりあえず大学名を挙げさせてください。変更は12月まで効きますので最終決定ではありませんし、このタイミングで変な選択をしてしまっても取り返しはつきます。

2.「わたし(保護者)はここがよいと思う」と意思を伝える

保護者の方がある程度イメージをお持ちの場合には、それをストレートに伝えてあげてください。よく「人生の押しつけになってしまうのではないか」と迷われる方がいらっしゃいますが、その心配は無用です。そもそも何の基準もなく生徒が好きに選ぶというのは、「選んでいる」のではなく、闇雲にサイコロを振っているのと同じです。生徒はまだ選択の基準を持っていないのですから。この場合は「ここに行け」というわけではなく、選択の基準として保護者の推薦校を判断材料の一つとして提供しているだけです。そこからどういう選択をするかは生徒の意思になります。

3.志望大学在学生の普段の様子を見る

大学にもそれぞれ校風があります。その校風が生徒の性格に合うか合わないかは基本的に生徒が感じ取って決めるものなので問題ありません。

ただし、保護者として許容できるものであるかを判断することは必要です。偏差値的に中堅層以下の大学の場合、学生の様子は大きく二者に分かれます。一つ目は「高校時にそこまで勉強に力を割かなかったが基本的に真面目でおとなしい」タイプ。二つ目は「とりあえず遊ぶためにどこでもいいから大学に入った」タイプ。もちろん両者はどこの大学にも混在していますが、その割合が異なります。前者はよく言えば真面目、悪く言えば覇気がない。後者はよく言えば活発、悪く言えば不真面目。どちらも一長一短あります。ただ「これは度を超している」と保護者が感じられた場合には除外した方がよいでしょう。

この「雰囲気」を見るためには、学園祭やオープンキャンパスも良いですが、できれば普通の日常を観察して欲しいと思います。最寄り駅から大学まで歩いてみると、おそらくあの大学の生徒だろうな、という若者の一群がそこかしこにいますので、その若者のタイプを感じとってみてください。言語化するのが難しいですが、「合う・合わない」があるはずです。

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高校三年生で模試偏差値50以下の状態から本格的な勉強を始め、東北大学文学部・慶應義塾大学文学部・早稲田大学教育学部・学習院大学文学部など最難関大学に現役合格したエンライテック卒業生の体験談です

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