※以下文章は通常年の夏休みを念頭に書かれています。今年の実情とはそぐわないところもあるかと思いますが、総体として今年も例年も高3の夏に対する考え方は大きく変わりません。

高3の夏は「受験の天王山」と言われることもあるほど重要な意味を持つ時期です。学校生活にかなりの時間を割く現役生にとっては、しっかりとまとまった自由時間を取ることができる最後の機会です。この時期にやっておきたいことは二つあります。

  1. 共通テストレベルの知識定着(市販問題集レベルの学習の終了)
  2. 2学期以降の行動計画の確定

生徒たちも誤解しがちなところですが、夏は新しいことを始める時期ではありません。むしろ、これまでの勉強の総決算をする時期なのです。これまでに指示された課題のやり残しや甘かった部分を徹底的に潰し、1学期の模試(第一回全統マーク・記述、第二回全統マーク)の分析から分かった自身の知識の抜けをフォローすることが重要です。まだカリキュラムが終わりきらない理社教科については、教科書を一通り最後まで自分で読み終えておく必要があります。

この基礎固めプロセスをしっかりやれた場合、9月からいよいよ過去問演習に入ることができます。過去問演習はただ問題を解いて丸をつけるだけではなく、模試の分析と同様精密な分析を行うため、かなり時間がかかります。志望校1校1校の過去問は3~5年分しかありませんが、受験校(すべり止めまで含めて)すべてをやりきるとなると、その量は膨大になります。時間をしっかり確保できなかった場合、過去問をやりきる前に試験本番になってしまい、ひどいときには過去問を一年分軽く目を通しただけなどという場合もありますが、こうなると純粋な学力だけではなくメンタルにも多大な影響を与えることになるでしょう。

次ぎに、2学期以降の行動計画をしっかり立てておくことも重要です。2学期は上述した過去問演習と模試分析が中心になりますが、国立志望者のプラスアルファ教科(文系の理科、理系の社会)やセンター直前の全教科演習、AO・自己推薦入試の対策、小論文対策などイレギュラーでやらなければならないことがいくつかあります。これらをいつから始めるのか明確に決めておかないと、周りの生徒たちの動向に引きずられる最悪の状況が生じることになります。特にプラスアルファ教科やセンター演習は人によってやるべきタイミングが微妙に違います。にもかかわらず、「友達はもう始めているから」と、無駄な焦りから無計画に手をつけて失敗する生徒は例年かならずいます。担当講師と相談し指示を受けながら夏・2学期の行動計画を作ることで、安定した学習を目指します。

共通テストレベルまでの知識を定着させる

まず、よく言われる「基礎」「共通テストレベル」の学力がどのようなものかを明確にしておきましょう。

大学受験の場合、各教科には知っておかなければならない基本的な知識があります。英語であればシンプルに「単語」や「単純な文法法則」「文型」、国語であればある一定レベルまでの「漢字・熟語・古語単語」や「指示語から解く問題の解法」など、数学であれば「一つの公式に当てはめるだけの文章題解法」などです。これらの知識がしっかりと定着したうえではじめてその先、つまり実際の入試問題に踏み込むことが出来ます。入試問題の難しさは概ね「知識1つをストレートに問うもの」から始まり「2つを使う必要があるもの」「3つを使う必要があるもの」と難度を増していきます。生徒達は“知識Aを使って答えA‘が出た。A’を前提に知識Bを使ってA‘Bが出た。A’Bを前提に…」と思考を進め答えにたどり着くのです。イメージとしては生徒達が幼い頃に遊んだレゴや積み木に近いかもしれません。

これらレゴのような「パーツとしての知識」をすべて習得した後はその組み合わせ方を学んでいく過去問演習に入るのですが、それが奏功するためにはとにもかくにもパーツをすべて持っていることが重要です。しかし、実際にはなかなか理想通りにいきません。これまでも我々の受験指導では生徒達にしつこくこの内容を伝えてきていますが、どうしても夏で終わらず9月10月とズルズル終わりがズレてしまう生徒達が多くいました。実は、これまでの入試ではそれでもなんとかなったのです。合格最低点が比較的低かったこれまでの入試は多少のミスは許容されましたが、合格最低点が八割程度にまで高まっている現在の試験ではミスの一つが即命取りになります。このような状況になると、これまでよりも格段に過去問研究と演習の重要性が増します。さらに近年の入試難化により併願校数は増加の一途をたどっているため、その分も過去問研究・演習に時間がかかることになります。

つまり

  1. 基礎完成が2学期にずれ込む
  2. 過去問分析演習が終わらないか終わっても形だけ
  3. 試験本番で初出問題にあたりパニック
  4. ミス頻発
  5. 不合格

の流れがこれまでよりもかなり「リアル」なのです。

よって、現行の入試においては、「なんとしてでも」夏中に基礎定着にけりをつける必要があります。

夏は「客観的な判断」が求められる時期

部活動を熱心にやっていた、あるいは受験への意識が低かった生徒の場合、高3の1学期はかなりキツい時期です。とにかく何をやっても「うまくいかない・できない」ことばかりだからです。講師が声をかけるとほとんどの生徒は「うまくいかない」「できない」と答えますし、我々もそれはある種織り込み済みです。ただし、この「うまくいかない・できない」の理由は生徒によって異なり、大きく2つに分類できます。

  1. 勉強を進めるたびに新たな課題が見つかって終わりがない
  2. 時間をかけていないため知識習得あるいは演習量が足りない

ここに加えて「やり方があっていない」という項目を付け加えるべきと思われる方がいらっしゃるかもしれません。その点について補足をしておくと、我々が生徒達に出す勉強の指示ややり方は実は大学入試のしごくスタンダードなもの、いわば定番ばかりです。塾や予備校が指導する勉強法や教材は様々ですが、この時期になってくると正直なところみな似たり寄ったりになります。大学入試業界もかなりの年数を重ねていますから、勉強を進める上での大体の方法論は経験則として収斂しているからです。もちろんインターネットや書籍などで我々塾講師から見るとかなり突飛なやり方が多く発表されていますし、それがフィットする生徒もいるかと思います。ただ、上述したスタンダードな方法は、過去に多くの生徒がその方法を実行して合格していることからこそ定番になっているのです。

さて、話を戻しましょう。1、あるいは2の理由のうち、よいのは前者、よくないのは後者ですが、事はそう簡単ではありません。というのも、2の理由に自分があてはまると生徒が自分自身で気づくのは意外と難しいからです。

例えばこのような事例。

Aという生徒が8月の中旬に講師に相談に来ました。生徒はいいます。

「おれ(わたし)、この夏すごい頑張ってるのに全然勉強がうまくいかないんです。超勉強してるんですよ! なのに模試で結果出ないし…。おれ(わたし)、能力がないんだと思います…/この勉強法があわないんだと思います…」

最初に確認すべきは「すごい頑張ってる」「超勉強してる」が具体的にどのくらいの時間数なのかを冷静に割り出し、客観的に判断することです。これまで一日1時間程度しか勉強していなかった生徒にとって、5時間の勉強は主観的には「超勉強してる」ことになります。あるいは、これまで勉強以前に机に座ってテキストを広げる経験がほとんどなかった生徒にとっては、机に座りテキストを広げて何時間か過ごせば「超勉強してる」ことになるでしょう。ちなみに、ある程度のレベルの大学を狙う生徒にとって、夏の勉強時間数で13時間〜15時間はごく普通ですから、客観的に見れば5時間ははっきりいって「勉強をやっていない」と同義です。ただ、1時間から5時間と5倍もやっているわけですから、主観的に見れば生徒は何も間違ったことを言っていません。この主観と客観のズレは実際に毎年見られる現象です。また、自習室や自室に10時間「テキストを広げて座っていた」だけというのもよくあるパターンです。

身も蓋もない話ですが、上述した「勉強時間」と「勉強の充実度」でほぼ入試の合否は決まってしまいます。だからこそ、大学入試は「生徒の入試」なのです。生徒が何時間勉強しているかを精密に講師がはかることは不可能です。塾の自習室を使っている場合その滞在時間は分かりますが、家に帰ってからの動きは生徒の言葉を信じるしかありません。また、充実度の部分は講師が内容について色々な突っ込みをすることである程度把握できますが、非常に細かい集中度の波についてまでは把握しきれません。高校3年生には中学入試や高校入試のときのように周囲の人間が強制力を働かせることはもはやできません。よって、大学入試は生徒が自発的に行動する以外どうしようもないのです。よって、我々講師が行うのは「何をどれだけ、どうやるべきか」を明確につたえることと、上述した「主観・客観のズレ」を指摘し気づきを促すことになります。

次に、「模試の結果が出ない」の部分も分析が必要です。例えば英語の文法問題。英語の短文の一部が空欄になっており、選択肢で示された単語を当てはめる問題です。例えば4つの選択肢となる単語がある場合、通常は4つの単語の意味が分からなければ正解を出すことはできません。3つまで単語を分かっていても不正解となり点数は上がらないのです。ただ、今年の初めには1つも分からなかったところから3つまで分かるようになっているとすれば、それは明確に学力が伸びていると言えます。高3の模試は回を重ねるごとに実践的になっていくため、一つの問題を解くために必要となる知識も増えていきます。よって、すべての知識を習得しきって初めてそれが点数に表れるという傾向があります。空のコップに水を入れていく様を想像してみると近いでしょう。最初のうちは注いでも注いでも水はあふれません。しかし水がコップの縁を越えた瞬間勢いよくあふれ出していくのです。

この点においても、主観的にふわっと「点数が上がらない」と捨て鉢になるのではなく、事実としてどこまで出来てどこから出来ないのか、年初から比べてどれだけ出来るようになったのかを客観的に見ていく必要があります。

夏の過ごし方

さて、ここまで長々書いてきましたのでまとめていきます。受験生が夏にやるべきことは上述した二点につきます。

  • なんとしてでも主力教科の基礎知識を習得しきる
  • 自身の状況を感情的に、曖昧に見ずに、事実としてどうなのかを冷静に分析し対策を立てる

その上で、勉強時間の大まかな目安と、生徒達に指示する勉強内容を掲載しておきます。ただし、勉強内容については生徒の志望校や現状学力によって一人一人微妙に異なるため、ここに掲載するのはあくまでもスタンダードなものです。

また、生徒にとってと同様、保護者の皆様にとっても夏は「キツい時期」になります。生徒が一つの目標に向かって本気の努力をする姿はとてもうれしく、その成長を感じることができるものですが、一方でその姿はかなり辛そうにも見えます。報われるか分からないにも関わらず努力し続けなければならない状況は生徒の精神に大きな負荷を与え、場合によってはそれが原因で不安定になることもあります。しかし、この修羅場を乗り越えるからこそ大きな収穫を得ることができるのも事実です。わたしも数多くの生徒を大学に送り出してきましたが、卒業した彼らが社会に出て遊びに来てくれた際に必ず話してくれるのは「高3夏の思い出」です。「あのときは死ぬかと思いましたけど、あれを経験したからこそ今の仕事のハードさも耐えられるんだと思います」と元生徒達は異口同音に言います。

今年の夏、生徒の頑張りをとことん応援してあげてください!

勉強時間の目安

上に「13〜15時間」と書きましたが、本当のところは「使える時間すべて」です。

睡眠6〜8時間と食事三食で1時間、風呂を含む身繕いで1時間として最長10時間の生活時間。これ以外のすべてです。さらに課題が終わらない場合には睡眠時間を削りますし、家庭内の規則が許せば食事中、入浴中も暗記系の勉強を進めます。もちろん学校の講習がある場合、その時間は差し引きます。

このような勉強ですべてを塗りつぶす生活を続けるために、週に一度は「オフの時間」を設定することを推奨しています。丸一日オフ、あるいは半日オフなどと決め、その時間は好きなことをとことんやります。このようなオフ時間を作っておくと生活リズムに区切りができ、「次のオフまで頑張ろう」と気持ちをリセットすることができるのでおすすめです。

(余談ですがこのオフ時間は勉強がうまくいき出すとどんどん勝手に減っていきます。うまく波に乗れている生徒と話をするとよくあるのが「オフなのになんかウズウズして気がついたら○○(課題テキスト)をやってました」というパターンです。)

勉強時間について、生徒と同様保護者の皆さんにもご理解いただきたいことが一点あります。それは、この勉強時間は「ごく普通」のものであり、合格する生徒たちがこれまでも当たり前のようにやってきたということです。よって我々が生徒達に出す課題もこの時間基準を意識した量や内容となります。ある程度の余裕は見ますので、一日に7〜8時間ほど集中して勉強してはじめて終わるくらいのものとお考えください。

指示する勉強内容

1学期の各課題(英、数、理、歴)のつづき

英語 文法 『英文法ファイナル問題集(標準編)(難関大学編)』のやり残しを片付ける。もちろん完璧と言えるまで繰り返す(特に標準編は、どの問題も「解答の理由を正しく説明した上で、正答を選べるレベル」になっているのが、難関大志望者の標準)。
長文 各人の志望校・実力によって異なるので講師に相談すること。基本的には9月からの過去問演習を英語長文の最後の練習と考えればよい(=長文読解の課題問題集と見なす)。
数学 1AⅡB 『チョイス』、あるいは『プラチカ』まで終わった者はⅠA・ⅡBの課題は特になし。終わっていなければ終わらせる。
『数学Ⅲカルキュール』を進める。
理科 物化生 物理、化学、生物の学校指定問題集を授業に沿って進めていく。教科書は夏いっぱいで一通り読み切り、“先”をイメージできるようにしておくこと。
社会 日世 課題問題集(基本『Bノート』だが、学校指定のものでも可)を授業に沿って進めていく。教科書は夏いっぱいで一通り読み切り、“先”をイメージできるようにしておくこと。

(注1)「同じ問題集を2回、3回と繰り返しやる」と言うが、ただ回数をこなせばよいということではない! ほんとうに身についているかが大事。1回目でもうわかってしまって完璧ならそれで終わりにしてもよいし、未定着なら4回、5回とわかるまで繰り返す。回数が問題なのではなく、「大丈夫。必ず出来る。」「『なんでそれが正答なの?』という質問に対して、正答の理由を“理論的に”答えられる。」と言えるまでやる、ということ!!

(注2)上記以外に個人的に課題を進めている者はそれをいつまでに終わらせるのかも考えよう。プラスアルファの部分は全員一律の課題ではなく、人によって内容や進度も変わってくる。勉強のやり方について担当講師とよく相談することがますます大事になってくる。

(注3)自分の弱点補強のために、さらに問題集をやりたい場合は、必ず講師に相談すること。相談せずに見当違いの問題集を勝手に買って進め、無意味な勉強をすることのないように!

(注4)上述課題の“進める”には知識暗記は当然含まれている。「英単語」「古語単語」「生物知識」「化学知識」「歴史人物・事項・年号」。

35年以上の指導実績

「勉強計画」「問題点の分析」「生徒の状態判断」の三本柱で志望校合格に導きます。

コース・料金紹介

偏差値55、60、65の壁を超える。生徒の能力にあったコースを展開。

高校三年生で模試偏差値50以下の状態から本格的な勉強を始め、東北大学文学部・慶應義塾大学文学部・早稲田大学教育学部・学習院大学文学部など最難関大学に現役合格したエンライテック卒業生の体験談です

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